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岡山地方裁判所 昭和42年(行ウ)10号 判決

倉敷市児島田ノ口五丁目一三番三八号

原告

三宅芳一

右訴訟代理人弁護士

小坂良輔

右訴訟代理人弁護士

名和駿吉

黒田充治

右名和訴訟復代理人弁護士

吉田幸次郎

倉敷市児島味野一丁目一五番二号

被告

児島税務署長

藤田正治

右指定代理人

大道友彦

井上宣

恵木慧

島津巌

岡田安央

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告が原告の昭和三八年分の所得税につき、昭和四〇年一二月二四日付でした総所得金額を三、四八二万九、〇一三円とする更正処分のうち、申告総所得金額二〇〇万八、一九〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分並びに昭和四一年九月二八日付でした、総所得金額を四、二一七万六、六五二円とする再更正処分(ただし、広島国税局長が昭和四二年八月三日付でした裁決により、一部取消され三、五四三万九、〇三二円に減額された。)のうち右申告総所得金額を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし、右裁決により一部取消され税額九三万一、二〇〇円となつた。)をいずれも取消す。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 原告は土木業を営むものであるところ、昭和三九年三月被告に対し昭和三八年分の所得税について総所得金額二〇〇万八、一九〇円(内訳、事業所得一五〇万円、給与所得五〇万八、一九〇円)の確定申告をしたところ、被告は昭和四〇年一二月二四日原告に対し、右所得金額を三、四八二万九、〇一三円(内訳、事業所得三、四〇七万七、二九三円、給与所得六六万五、二〇〇円、不動産所得八万六、五二〇円)とする旨の更正処分および過少申告加算税九一万一、四五〇円の賦課決定処分をし、その頃これを原告に通知した。原告はこれを不服として昭和四一年一月一八日異議申立をした。

次いで、被告は昭和四一年九月二八日原告に対し、総所得金額四、二一七万六、六五二円(内訳、事業所得三、四〇七万七、二九三円、給与所得六六万五、二〇〇円、不動産所得八万六、五二〇円、雑所得損失金一七九万八、七五七円一時所得九一四万六、三九六円)とする旨の再更正処分および過少申告加算税一一五万〇二五〇円の賦課決定処分をし、その頃これを原告に通知した。原告はこれを不服として同年九月三〇日異議申立をした。

2. 右の各異議申立はいずれも前者については同年四月一八日、後者については同年九月三〇日審査請求とみなされ、広島国税局長は昭和四二年八月三日所得金額のうち事業所得三、四〇七万七、二九三円を二、七三三万九、六七八円に減額し(総所得金額三、五四三万九、〇三二円)、被告の再更正処分をその限度において、次いで過少申告加算税一一五万〇二五〇円を九三万一、二〇〇円に減額し、被告の右過少申告加算税賦課決定処分をその限度においていずれも取消す旨の裁判をなし、その頃これを原告に通知した。

3. しかし、被告のした右各処分(裁決により一部取消された部分を除く)はいずれも違法であるからその取消を求める。

二、請求原因に対する認否

請求原因1、2の事実は認め、同3の主張は争う。

三、被告の主張

1. 原告の昭和三八年分の事業所得金額の内容は次のとおりである。

(一)  収入金額 六、八〇七万二、四八〇円

(1) 造成宅地の売却による収入金額 六、三九五万二、四八〇円

原告は、倉敷市児島唐琴町地先の公有水面を埋立て、宅地を造成し、これを他に売却しているので被告が原告に面接して調査したところ、原告は所得金額の計算の基礎となる帳簿書類等を備えつけておらず、しかも被告の調査に対しての協力も得られなかつたので、被告はやむなく登記簿により右宅地の買受先を確認し、右買受先に対する書面照会、実地調査、原告の取引銀行に対する調査等により収入金を算定した。

原告の本件係争年分の造成宅地の売却等による収入金額は別表一のとおり六、三九五万二、四八〇円となる。なお、原告はそのうち、児島市唐琴町一、〇六九番九の造成宅地一〇〇坪の売却に際し、買主の訴外河田幾久子外一名から代金として現金三〇万円とともに同所八三九番七の土地一〇〇坪を交換取得しているから右土地を相続税の評価基準によって六二万一、七二〇円と評価しこれに現金三〇万円を加算して前記売却代金を九二万一、七二〇円と算出した。

(2) 請負い埋立工事による収入金額 四、一〇万円

原告は昭和三八年訴外中国土地興業株式会社から明石団地の埋立地の一部陥没箇所の埋立工事を請負ってこれを完成し、同年一一月一二日その代金三〇〇万円および同団地の宅地造成に対する監督料一一〇万円合計四一〇万円を本件係争年中に受領した。

(3) リベート収入金額 二万円

原告は訴外ふそう自動車株式会社からリベートとして二万円を受け入れた。

(一)  必要経費 三、五六四万四、七九八円

(1) 造成宅地の必要経費 三、二三六万九、五〇九円

原告が岡山県知事宛に原告の娘婿である訴外三宅博行名義で提出した本件造成宅地一万〇三六六坪(本件係争年中に売却した宅地五、五九八坪二七はこの中に含まれている)の「公有水面埋立工事変更申請書」に添付してある「工事原価見積書」によれば造成宅地の工事費等は次のとおりであつた。

(イ) 護岸工事費 一、七八七万二、〇二五円

(ロ) 排水工事費 五一四万八、五八九円

(ハ) 埋立工事費 一、八四三万〇〇五一円

(ニ) 雑費 六二一万七、五九九円

而して、前記「工事原価見積書」は本件宅地造成の完了後原告の計算に基づいて提出されたものであり、それに記載されている内容は次に記述するほかは原告が投下した実額に一応近いものということができる。

(ハ)の埋立工事費は、後述の、原告が中国土地興業株式会社から請負った明石団地造成のための埋立工事と同時期に施行されているから一立方米当りの工事費は右団地造成工事のそれと同一であつたと考えられるのに拘らず、「工事原価見積書」記載の埋立工事費は右団地造成工事費に比して過少であるから、後記(2)(ロ)に記載した埋立工事の一立法米当り工事費二四八円九二銭をもとに算定するのが合理的である。

そこで、これに本件宅地造成に要する土量一一万〇六九一立方米を乗じて原告の造成した宅地の埋立工事費を算出するとそれは二、七五五万三、二〇三円となる。

(ニ)の雑費は、社団法人全国防災協会作成の「災害復旧工事設計書の設計要領」によると、請負い直接費に対する割合いで算定さるべきであるから、原告の直接工事費二、三〇二万〇六一四円(前記護岸工事費と同排水工事費の合計)に直接工事費に対する雑費の率一八・五パーセントを乗じた額四二五万八、八一三円が原告の宅地造成工事における雑費となる。

(ホ) 免許料 四五万六、五〇〇円

原告は本件埋立免許料四五万六、五〇〇円を岡山県に納付した。

(ヘ) よつて、原告の宅地造成工事費の総額は(イ)ないし(ホ)の合計五、五二八万九、一三〇円となるところ、右宅地造成工事によつて造成された宅地は一万〇三六六坪であるが、そのうち原告が売却した造成宅地の坪数は九、七四八坪七四(これは護岸、溝渠用地等を差し引いたもの)であるから売却面積一坪当りの宅地造成工事費は、五、六七一円(55,289,130円÷9,748,74坪)となる。そこで、これに本件係争年中に売却した造成宅地の坪数五、五九八坪二七を乗ずると三、一七四万七、七八九円となり、これに原告が訴外河田幾久子外一名から造成宅地の売却代金の一部として取得した前記児島市唐琴町八三九番七の土地一〇〇坪の価格六二万一、七二〇円を加算した三、二三六万九、五〇九円が本件係争年において原告が売却した造成宅地の収入金額六、三九五万二、四八〇円に対応する必要経費である。

(2) 請負埋立工事の必要経費

前記請負埋立工事代金三〇〇万円の収入を得るために必要な原告の工事費は埋立土一立方米当りの工費に埋立土量を乗じて算出するのが合理的である。

(イ) 埋立土量 一万三、一五八立方米

中国土地興業株式会社が倉敷市児島下之町三番地先海面に明石団地を造成するに当り要した埋立総土量は二五万二、〇一九立方米であるところ、原告は本件係争年度後に右訴外会社から右造成団地の埋立工事を請負い、その工事収入金額は五、七五一万〇七六四円であつたからこれを右総土量で除すと一立方米当りの収入金額は二二八円となる。

ところで、原告が本件係争年中に請負つた前記(一)(2)の埋立工事も同様右訴外会社から請負ったもので、工事施行場所工事内容等の状況も類似しているから本件係争年中の埋立工事による収入金額三〇〇万円に対する埋立土量は、右収入金額三〇〇万円を前記二二八円で除して得た一万三、一五八立方米であるというべきである。

(ロ) 埋立土一立方米当りの工事費 二四八円九二銭

被告は、専門家である岡山県土木部長に対し、原告の埋立工事施行の実態を勘案のうえ導き出した計算条件(普通山土、デイツパー公称容量一・二立方米、運搬距離一キロメートル、運搬速度往路一〇キロメートル復路二〇キロメートル、運搬自動車二トン三輪ダンプカー、デイツパー一サイクル距離一五メートル)を付して照会し、その回答結果を一部修正したうえ次のとおり埋立土一立方米当りの工事費を算出した。

〈1〉 山土代

原告は盗掘して採取したのであるから土取得に要した費用はない。

〈2〉 築立一六円、 〈3〉 切崩積込費二四円九〇銭

いずれも前記岡山県土木部長の回答結果によつて認定した。

〈4〉 運搬費 五六円二〇銭

二トン三輪ダンプカーを使用し、これに二立方米の土を積載して一車九〇円で運搬したので、一立方米当りの運賃は四五円であるところ、運搬のためダンプカーに積載した土はほぐしたものであるのに対し埋立てた土は固まつた状態となるため、埋立土の運搬費を算出するにはまず、埋立土量を運搬土量に換算することを要すべく、かくて前記「設計要領」による土の変化率(固まつた土とほぐした土の容量の変化率)一・二五を右一立方米当りの運賃に乗じて埋立土量一立方米当りの運搬費を算出すると五六円二〇銭となる。

〈5〉 機械損料 六九円六〇銭

原告が本件事業に使用した機械器具車両についてその昭和三八年から昭和四一年までの償却費の合計額四、二八八万五、三一三円を同期間における埋立総土量六一万六、一二六立方米で除して一立方米当りの減価償却費を算出すると六九円六〇銭となる。

〈6〉 営繕損料 二円四〇銭

前記回答結果による。

〈7〉 諸経費 六円一〇銭

前記回答結果によれば諸経費は三二円六〇銭であるが、これは現場経費、一般管理費および利潤を含めた総合諸経費であるから利潤を控除する必要がある。そこで、〈1〉ないし〈6〉の合計二〇一円七〇銭に下請土建業の通常の場合の平均利益率一三・一五パーセントを乗じて利潤を算出すると二六円五〇銭となるからこれを前記回答結果による諸経費三二円六〇銭から控除すると六円一〇銭となる。

〈8〉 機械等特別損失 七三円七二銭

原告は昭和三八年から昭和四一年まで埋立に使用した建設機械および車両を売却したり、あるいはその購入代金や修繕費について多額の未払金があつたため、債権者に右建設機械および車両を引き上げられたりしているのでこれを計算すると損失金は四、五四二万二、三三五円となる。この金額を同期間内における総埋立量六一万六、一二六立方米で除して一立方米当りの車両機械等の雑損失額を算出すると七三円七二銭となる。

以上のとおり本件埋立ての一立方米当りの工事費は〈1〉ないし〈8〉の合計二四八円九二銭となるから前記(イ)の本件係争年分の土量一万三、一五八立方米を乗じて訴外中国土地興業株式会社から請負つた埋立代金三〇〇万円に対応する必要経費を算出すると三二七万五、二八九円となる。

(三)  そこで、前記(一)の収入金額から同(二)の必要経費を控除して原告の本件係争年分の事業所得金額を算出するとそれは三、二四二万七、六八二円となる。

2. 原告の本件係争年分の一時所得の内容は次のとおりである。

(一)  収入金額 一、八七〇万一、〇〇〇円

原告は組組織「現金屋」の初代組長を引退するに当り、昭和三八年四月一五日角力興業を開催した。その際訴外日新被服株式会社外一五〇名からいわゆる花代合計一、八七〇万一、〇〇〇円を取得したものである。これは営利を目的とする継続的行為から生じたものではなく、一時的性質のもので、しかも労務その他の役務の対価たる性質を有しないものであるから所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの)第九条一項九号の一時所得に該当する。

(二)  必要経費について

右収入金額のうちには手形で受け入れたものもあり、これを原告がその支払期日前に訴外中国銀行田ノ口支店で割引き現金化しており、その際同支店に差引かれた割引料は二五万八、二一七円であるので、これを右収入金額に対する必要経費として計算した。

なお、前記角力興業の収入は八〇万円であり、それに対応する経費は三五一万八、七五七円であつたから、それは後記のとおり雑所得に係る必要経費として計上した。

(三)  そこで、被告は右二五万八、二一七円を同法九条一項九号にいう「その収入を得るために支出した額」と認めてこれを右の収入金額一、八七〇万一、〇〇〇円から控除し、さらに同法九条一項本文による法定の控除(一五万円)をした後の金額の一〇分の五に相当する金額九一四万六、三九一円を原告の一時所得金額としたものである。

3. 雑所得の内容は次のとおりである。

(一)  角力興業による収支計算は別表二のとおりであるが、原告には収支を明らかにする記録の保存もなく調査に際して収支を明らかにするよう求めたが、原告は収支を明らかにしなかつたので、やむをえず収入は入場税申告書により原告から届け出のあつた収入金により、必要経費は児島警察署の警察官が作成した「暴力団現金屋組長三宅芳一の引退相撲に関する経費裏付状況について」と題する捜査報告書に記載された資料金額によりそれぞれ算出した。

(二)  原告は、昭和三八年一二月二〇日訴外旭被服興業株式会社から不動産仲介料として一〇〇万円を受領した。

(三)  よつて、雑所得金額として、角力興業による収入金額八〇万円と不動産仲介料としての収入金額一〇〇万円との合計額から角力興業による必要経費三五一万八、七五七円控除して、損失金一七九万八、七五七円を認定した。

4. 給与所得金額は六六万五、二〇〇円、不動産所得金額は八万六、五二〇円である。

5. よつて、原告の昭和三八年中の所得金額は事業所得三、二四二万七、六八二円、一時所得九一四万六、三九一円、給与所得六六万五、二〇〇円、不動産所得八万六、五二〇円、雑所得(損失)一七九万八、七五七円、以上総額四、〇五二万七、〇三六円であるから、右の範囲内で被告が原告の昭和三八年分の所得税につき、昭和四〇年一二月二四日付でした更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分ならびに昭和四一年九月二八日付でした再更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分はいずれも適法である。

四、被告の主張に対する答弁と反論

1. 事業所得について

(一)  三1(一)(1)の事実、明石団地の宅地造成に対する監督料収入一一〇万円、リベート収入金額二万円についてはこれを認めるが、明石団地の増埋立工事による収入金額三〇〇万円は否定する。

(二)(1)  宅地造成の必要経費について

被告主張の宅地造成に伴う護岸工事は工事中途において台風等による決遺のため二回中断し、三回目にしてようやく完成をみたのであつて原告は次のとおりの不測の出費を余儀なくされた。

(イ) 護岸工事費

原告はセメント、砂利及び砂代として九八五万四、〇〇〇円、型枠鉄筋その他諸材料費として八二三万五、四〇〇円、労務費として一、九九六万五、九六〇円合計三、八〇五万五、三六〇円を出捐した。

(ロ) 排水工事費

この工事は、川床に泥粘土がありしかも川中には干潮時でも大人の胸位の高さまで海水があつて難工事であつたから通常の工事に比し、一・五倍位の費用を要し、労務者には特別手当を支給し、工事費として一、〇五〇万円を出捐した。

(ハ) 埋立工事費

埋立土量一立方米当りの工事費のうち運搬費を除くその余の費目即ち山土代〇円、築立一六円、切崩積込費二四円九〇銭、機械損料六九円六〇銭、営繕損料二円四〇銭、諸経費六円一〇銭、車両機械等特別損失七三円七二銭についてはいずれも認めるが、運搬費は争う。それは一〇〇円である。したがつて、以上の合計二九二円七二銭に宅地造成に要した土量一三万立方米を乗じて埋立工事費を算出すると三、八〇五万三、六〇〇円となる。

(ニ) 雑費

これはすでに前記(イ)ないし(ハ)の工事費に含まれている。

(ホ) 免許料

被告主張のとおり四五万六、五〇〇円であることを認める。

以上の合計八、七〇六万五、四六〇円のほかに被告の調査にもれた排水溝、ヒユーム管排水溝等に要した費用があるのでその合計額は収入金額を超える。

(2) 請負埋立工事費

埋立土一立方米当りの工事費は前記(1)(ハ)において主張したとおり二九二円七二銭とみるべきである。

原告は中国土地興業株式会社から受け取つた三〇〇万円を漁業補償費として大畠漁業協同組合(組合長北畠長重)に支払つているからこれも埋立工事の必要経費として計上すべきである。

2. 一時所得について

(一)  被告主張のとおり花代として一、八七〇万一〇〇円を得たことは認める。

(二)  必要経費は争う。

被告主張の必要経費二五万八、二一七円のほかに角力興業の開催に伴つて次のような経費を要した。

〈1〉 パネル、板、丸太、角材代 四七九万円

〈2〉 人夫賃 一七〇万円

〈3〉 菰、繩代 六八万円

〈4〉 便所、建築代 一一万円

〈5〉 釘、針金代 二万円

〈6〉 電気工事代 六、〇〇〇円

〈7〉 折詰代 五万円

〈8〉 幕代 一五万円

〈9〉 土俵づくり 八万円

〈10〉 番付枠、御幣棒 二万円

〈11〉 のし紙、かざり紙 五、〇〇〇円

〈12〉 看板書代 二万円

〈13〉 番付表、ポスター代 一〇万円

〈14〉 力士タクシー代 一五万円

〈15〉 バス借上料 一三万円

〈16〉 力士汽車賃(広島、倉敷間) 三五万円

〈17〉 力士宿泊代

新常盤 三万円

鷲羽山ホテル 六万円

下電ホテル 一六万円

鷲麓園 三万六、〇〇〇円

山水旅館 三万円

雅叙園ホテル 八万円

〈18〉 酒代(力士部屋配付用) 一二万三、〇〇〇円

〈19〉 チヤンコ鍋代 二〇万円

〈20〉 吉葉山チツプ 二〇万円

〈21〉 行司木村正之助チツプ 一〇万円

〈22〉 先乗り行司準備係五人経費 五万円

〈23〉 役力士に対する贈物 四万円

〈24〉 余興角力のチツプ 五万円

〈25〉 大角カネツト代 一五〇万円

〈26〉 来賓折詰代 三〇万円

〈27〉 米代一五俵分 一〇万円

以上など合計一、一四四万七、〇〇〇円

3. 給与所得、不動産所得に関する被告主張事実を認める。

五、右反論に対する被告の反論

1. 宅地造成の必要経費について

被告主張額よりも多額の費用を要したとか被告の計上している経費に計上もれがあるとかの原告の主張は抽象的であつてその根拠が全く明らかでなく信ぴよう性に乏しい。

2. 請負埋立工事の必要経費について

漁業補償費三〇〇万円を出捐したとの主張は争う。

仮に北畠長重に三〇〇万円が交付されたとしても、それは、同訴外人と個人的に親しかつた原告が、当時業務上横領の疑いをうけ窮状に陥つていた同訴外人に同情してした個人的な消費貸借に基づくものであつて事業所得の必要経費とは関係がない。

3. 角力興業の必要経費について

角力興業による損益は雑所得とし、損失金二七九万八、七五七円を算出したのであるが、被告が別表二に計上した必要経費は警察署において裏付けが確認されているものであつて、被告において推計したものではない。原告の主張する経費は推測を加えて計上したものといえる。

第三、証拠

一、原告

1. 甲第一号証の一ないし五、第二号証の一、二(いずれも擁壁の決潰状況を撮影した写真)、同号証の三(擁壁の折損部分が散在している状況を撮影した写真)、第三号証の一(排水溝の入口及び西側ヒユーム管の入口付近を撮影した写真)、同号証の二(排水溝と排水溝の交接部分を撮影した写真)、第四号証(両側ヒユーム管入口付近を撮影した写真)、第五号証(排水溝の出口付近を撮影した写真)、第六号証の一(同上)、第六号証の二(排水溝の出口と底部コンクリート張が砂礫に埋もつている状況を撮影した写真)、第七ないし一〇号証。

2. 証人北畠長重、同古谷正男、同尾崎陸男、同森定勇、同秋山輝男、同三宅市松、同三宅高雄、同山本洋平、原告本人(第一、二回)

3. 乙第二一号証、第二二ないし二六号証の各二の成立は不知、第二二ないし二六号証の各一のうちいずれも公務署印は認めその余の成立は不知、その余の乙号各証の成立(但し乙第一五号証は原本の存在及び成立)を認める。

二、被告

1. 乙第一号証、第二号証の一ないし三、第三ないし六号証の各一、二、第七号証、第八号証の一ないし三、第九号証の一ないし五、第一〇号証の一、二、第一一号証の一ないし六、第一二、一三号証の各一、二、第一四ないし一六号証、第一七、一八号証の各一、二、第一九、二〇号証の各一ないし三、第二一号証、第二二ないし、二六号証の各一、二、第二七号証。

2. 証人浅野澄治、同安藤利夫

3. 甲第二号証の一ないし三、第三号証の一、二、第四、五号証、第六号証の一、二がその主張のような被写体を撮影した写真であること及び第七、九、一〇号証の成立(甲第七号証については原本の存在及び成立)は認め、その余の甲号各証の成立(但し第八号証は原本の存在及び成立)は不知。

理由

一、請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二、次に被告の主張について判断する。

1. 事業所得について

(一)  事業収入金

被告主張の昭和三八年分の事業収入金のうち、倉敷市児島唐琴町先公有水面の造成宅地の売却等による収入金額が六、三九五万二、四八〇円、明石団地の宅地造成に伴う監督料収入が一一〇万円、リベート収入金額が二万円であることは当事者間に争いがない。

また、成立に争いのない乙第七号証、乙第一八号証の一、二、乙第一九号証の二、三、証人浅野澄治の証言によれば、原告は昭和三八年訴外中国土地興業株式会社から明石団地埋立の一部陥没箇所の埋立工事を請負つたが、同年一一月一二日その請負代金として三〇〇万円を受領したことが認められ、原告本人(第一、二回)尋問の結果中右認定に反する部分は措信できない。

してみると、原告の昭和三八年分の事業収入金として計上せらるべき総額は六、八〇七万二、四八〇円である。

(二)  造成宅地の必要経費

(1)  護岸工事費、排水工事費

成立に争いのない乙第二号証の一ないし三、証人浅野澄治の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告の昭和三八年中の事業所得に係る必要経費を明らかにする帳簿は備え付けられていないが、本件宅地造成について昭和三八年九月五日岡山県知事に提出された原告作成の「公有水面埋立工事変更申請について」と題する書類に工事費の見積書が添付されていることが認められる。

したがつて、原告の昭和三八年中の事業必要経費については右の工事費見積書の数字を基準としつつ不合理な費目についてはこれを修正したうえ算定するのが合理的であるというべきである。

而して、その工事費見積書(前記乙第二号証の二)によれば、埋立面積三三七万一、五三一平方米について、護岸工事費一、七八七万二、〇二五円、排水工事費五一四万八、五八九円、埋立工事費一、八四三万〇〇五一円、諸経費六二一万七、五九九円と見積もられている。

ところで、成立に争いのない乙第三号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、原告の本件宅地造成工事と同時期に中国土地興業株式会社も倉敷市児島下之町三番地先海面の宅地造成を施行し、その際岡山県知事へ「公有水面埋立工事設計変更申請書」を提出したが、それによると埋立面積五四四万七、一八〇平方米について護岸工事費三、三一九万三、五八三円、排水工事費六三〇万〇五〇五円、埋立工事費六、八〇四万五、一八四円、雑工事費二九万九、六四八円、諸経費一、〇七八万円と見積られていることが認められる。

そこで、右の両者を比較してみるに護岸工事費、排水工事費については概ね埋立面積に比例して見積もられているが、埋立工事費については、中国土地興業株式会社がいくらか過多に見積つているとしても原告の見積額は過少であるというべきである。

したがつて、護岸工事費、排水工事費については前記乙第二号証の二の見積書によるのが合理的であり、従つて護岸工事費は一、七八七万二、〇二五円、排水工事費は五一四万八、五八九円と算定すべきである。

これに反し、原告は護岸工事、排水工事は台風等による被害のため不測の出費を余儀なくされ、護岸工事費として三、八〇五万五、三六〇円、排水工事費として一、〇五〇万円を要したと主張するが、これを裏付ける帳簿又は書類は全く提出されていないし、右主張に添うものとして提出された証人三宅高雄の証言によつて成立の認められる甲第一号証の一ないし五は、本件係争年後七年をも経過した本訴提起後の昭和四五年八月一二日原告の養子である三宅高雄によつて作成された見積書であり、しかもそのうち同号証の四中に記載されている材料の単価についてみるに前記乙第二号証の一ないし三、乙第三号証の一、二により認められる本件係争年当時の単価と比して極めて高く見積られているうえ、そのように高く見積られた根拠も明らかでなく、借信しえないものといわなければならない。また、証人三宅市松、同尾崎陸男、同古谷正男、同森定男、同三宅高雄の各証言及び原告本人(第一回)尋問の結果中には右主張に添うかの如き部分があるがにわかに措信しえない。

(2)  前記乙第二号証の二中の原告の見積つた金額は過少であるから埋立土量一立方米当りの工事費を算定したうえこれに埋立土量を乗じて算定するのが合理的である。

而して、被告が主張する埋立土量一立方米当りの工事費の費目のうち山土代〇円、築立一六円、切崩積込費二四円九〇銭、機械損料六九円六〇銭、営繕損料二円四〇銭、諸経費六円一〇銭、機械等特別損失七三円七二銭については当事者間に争いがないので、運搬費について検討する。

成立に争いのない乙第一一号証の二ないし四、乙第一五号証、証人安藤利夫の証言によれば、本件埋立地への土の運搬には二トン三輪ダンプカーが使用され、二立方米の土を積載し一車九〇円で運搬されていたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はなく、右事実によればダンプカーに積載された土一立方米当りの運搬費は四五円となる。しかし、ダンプカーに積載された土はほぐされたものであるが、埋立土は固まつた土であるから成立に争いのない乙第八号証の三によつて認められる土の変化率(固まつた土とほぐした土の変化率)一・二五を前記積載土一立方米の運搬費四五円に乗じて埋立土一立方米当りの運搬費を算出すると五六円二〇銭となる。

これに反し、原告は埋立土一立方米当りの運搬費は一〇〇円であると主張するが、これを認めるに足る証拠はない。

よつて、以上合計すると埋立土一立方米当りの工事費は二四八円九二銭となる。

而して、前記乙第二号証の三によれば本件宅地造成に要する土量が一一万〇、六九一立方米であることが認められるからこれを前記二四八円九二銭に乗じて埋立工事費を算出すると二、七五五万三、二〇三円となる。

(3)  雑費

前記各工事費のうち埋立工事費中には前述のとおりすでに雑費が含まれているので、その余の護岸工事費及び排水工事費についてその雑費を算定することとするが、その方法は成立に争いのない乙第八号証の一、二(建設省防災研究会編「災害復旧工事の設計要領」)によつて認められる方法即ち請負直接費に一定の雑費率を乗じて算出するのが合理的である。

而して、本件宅地造成における請負直接費は護岸工事費一、七八七万二、〇二五円、排水工事費五一四万八、五八九円及び埋立工事費二、六八七万七、九八八円(前記認定の二、七五五万三、二〇三円から諸経費の額六七万五、二一五円を控除したもの)の合計額四、九八九万八、六〇二円となるところ、これは前記乙第八号証の二中の「請負直接費が三、〇〇〇万円を超え五、〇〇〇万円以下の場合」に該当するからその場合の雑費の率は一、〇〇〇分の一八五である。而して、先に認定したとおり埋立工事費には雑費が含まれているのであるからこれを除いた請負直接費二、三〇二万〇六一四円に右雑費率一八・五パーセントを乗じて雑費を算出すると四二五万八、八一三円となる。

(4)  本件宅地造成に伴う埋立免許料として四五万六、五〇〇円を要したことは当事者間に争いがない。

(5)  よつて、本件宅地造成工事費は以上を合計した五、五二八万九、一三〇円となるが、弁論の全趣旨によれば、本件宅地造成工事によつて造成された宅地は一万〇三六六坪であるが、そのうち原告が売却した坪数は九、七四八坪七四であることが認められるから売却面積一坪当りの宅地造成工事は五、六七一円となる。

55,289,130円÷9,748.74=5,671円

而して、原告が昭和三八年中に売却した造成宅地の坪数が五、五九八坪二七であることは当事者間に争いがないからこれに右の売却面積一坪当りの宅地造成工事費を乗じて原告の昭和三八年中における造成宅地売却に係る必要経費を算出すると三、一七四万七、七八九円となる。

原告が、河田幾久子ほか一名への造成宅地売却の反対給付として交換取得した倉敷市児島唐琴町八三九ノ七の土地一〇〇坪を造成宅地売買の一環として松井織物株式会社に一〇〇万円で売却したこと、而してその当時における右土地の評価額は相続税法にいう標価基準によると六二万一、七二〇円であつたことは当事者間に争いがなく、されば右の売却に伴う必要経費は六二万一、七二〇円である。

したがつて、以上の合計額三、二三六万九、五〇九円が前記造成宅地等の売却による収入金額六、三九五万二、四八〇円に対応する必要経費である。

(三)  請負埋立工事の必要経費

前記二1(一)において認定した明石団地造成における一部陥没箇所の増埋立工事収入金三〇〇万円に対応する必要経費についても先と同様埋立土一立方米当りの工事費に埋立量を乗じて算定するのが合理的であるからまず埋立量を算定する。

前記乙第三号証の二、成立に争いのない乙第一一号証の五、証人安藤利夫の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告は右増埋立工事の後中国土地興業株式会社から埋立工事を請負い、五、七五一万〇七六四円の収入を得たが、その埋立に要する総土量は右訴外会社の見積りで二五万二、〇一九立方米であつたから一立方米当りの収入金額は二二八円となるところ、本件増埋立工事の注文主は右訴外会社であり、施工時期は近接しており、その内容場所も類似していることが認められるので、本件増埋立工事に要した埋立土量は右工事による収入金額三〇〇万円を前記二二八円で除して算出するのが相当であり、かくて右土量は一万三、一五八立方米となるところ、埋立土量一立方米当りの工事費は前記認定の二四八円九二銭をもつて相当とするから結局右工事収入三〇〇万円に対応する必要経費は三二七万五、二八九円となる。

248円92銭×13,158=3,275,289円

原告は大畠漁業協同組合へ漁業補償として三〇〇万円を支払つたからこれも必要経費に計上すべきであると主張するが、これを認めるに足る証拠はない。

(四)  以上のとおりであるから原告の昭和三八年分の事業所得金額は収入金額六、八〇七万二、四八〇円から必要経費三、五六四万四、七九八円を控除した三、二四二万七、六八二円となる。

2. 一時所得について

(一)  収入金額

原告が組組織「現金屋」の初代組長を引退するに当り、昭和三八年四月一五日、角力興業を開催した際日新被服株式会社外一五〇名からいわゆる「花代」として一、八七〇万一、〇〇〇円を受け取つたことは当事者間に争いがなく、右事実によれば右の収入金額一、八七〇万一、〇〇〇円は所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの)九条一項九号の一時所得にあたると解するのが相当である。

(二)  必要経費

前記収入金額のうち手形で受け入れたものについては原告がこれらをその支払期日前に中国銀行田ノ口支店で割引き現金化しており、その際同支店に差し引かれた割引料は合計二五万八、二一七円であつたことは原告においてこれを明らかに争わないから自白したものとみなすべく、右事実によれば、右割引料は右収入金額に対する必要経費として計上されるべきである。

なお、原告は角力興業開催に伴う経費も一時所得の必要経費として算入さるべきであると主張するが、角力興業による所得は原告の労務その他の役務の対価たる性質を有するものと解されるから一時所得ではなく前同法九条一項一〇号にいう雑所得というべく、したがつて角力興業に伴う経費は後記のとおり雑所得に係る必要経費として算入すべきである。

(三)  以上のとおりであるから、原告の昭和三八年分の一時所得に同法九条一項所定の操作を加えた金額は収入金額一、八七〇万一、〇〇〇円から必要経費二五万八、二一七円を控除した金額一、八四四万二、七八三円から前同法九条一項本文により一五万円の特別控除をした金額の十分の五に該当する金額九一四万六、三九一円である。

3. 雑所得について

(一)  収入金額

(1)  弁論の全趣旨及びそれにより成立の認められる乙第二一号証によれば、原告が前記認定の角力興業により八〇万円の収入を得たことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(2)  成立に争いのない乙第二七号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は昭和三八年一二月二〇日旭被服興業株式会社から不動産仲介料として一〇〇万円を受領したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  必要経費

前記乙第二一号証によれば、原告は前記認定の角力興業により別表二のとおり標準経費三五一万八、七五七円、標準外経費八万円を要したことが認められる。

これに反し、原告は角力興業による経費として総額一、一四四万七、〇〇〇円を要した旨主張し、成立に争いのない甲第七号証及び原告本人(第一、二回)尋問の結果中には右主張に添う部分があるが、各費目の金額は漠然とした根拠に乏しいものであつてにわかに措信し難い。

(三)  以上のとおりであるから、原告の昭和三八年分の雑所得金額は右収入金額一八〇万円から右必要経費三五九万八、七五七円を控除した損失一七九万八、七五七円である。

4. 給与所得六六万五、二〇〇円、不動産所得八万六、五二〇円については当事者間に争いがない。

5. 以上の各所得金額を合計すると四、〇五二万七、〇三六円となるから右所得金額の範囲内でなされた本件各処分はいずれも適法である。

三、よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないことに帰するから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中原恒雄 裁判官 竹原俊一 裁判官池田克俊は転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官 中原恒雄)

別表一

昭和38年造成宅地売却収入金額

〈省略〉

別表二

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〈省略〉

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